大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

鳥取地方裁判所 平成10年(行ウ)2号 判決

原告

川喜代治

被告

鳥取税務署長 豊田耕輔

右指定代理人

勝山浩嗣

長尾俊貴

藤音寛

湯川明則

松下悟

甲斐好徳

祖田定

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告が平成六年一一月一五日付けでした原告の平成五年分所得税についての更正処分のうち納付すべき税額五万九八〇〇円を超える部分及び右所得税についての重加算税賦課決定処分(ただし、いずれの処分も平成七年四月五日付けでなされた異議申立てに対する決定により一部取り消された後のもの)を取り消す。

第二事案の概要

本件は、被告が原告の平成五年分の所得税について更正(以下「本件更正処分」という。)及び重加算税賦課決定(以下「本件重加算税賦課決定処分」という。)をしたことについて、原告が右各処分にはいずれも違法があると主張してその取消しを求めた事案である。

一  争いのない事実等

1  当事者など

原告は、損害保険代理業及び不動産仲介業を営む者であり、昭和五六年一〇月ころ事実上倒産した有限会社勢川鉄工所(以下「勢川鉄工所」という。)の代表取締役であった。

2  本訴に至る経緯

(一) 原告は、平成六年三月七日、被告に対し、原告の平成五年分の所得税について確定申告(以下「本件確定申告」という。)をした。原告は、本件確定申告において、〈1〉原告が、平成五年八月五日、有限会社伝習館(以下「伝習館」という。)に対し、鳥取市幸町所在地番二六番九の宅地(地積三二八・〇三平方メートル。以下「本件土地」という。)を五五五三万七四〇〇円、本件土地上の鉄筋コンクリート造平家建居宅(床面積七八・七七平方メートル。昭和三五年一〇月二〇日新築。以下「本件建物」という。)を四〇〇万円で譲渡したことについて、本件土地及び本件建物は、租税特別措置法(平成七年法律第五五号による改正前のもの。以下「措置法」という。)三五条一項に規定されている居住用財産に該当すること、〈2〉原告が、池上美道(以下「池上」という。)に対し、平成四年二月二八日に一五〇万円、同年四月三〇日に一五〇万円をそれぞれ支払ったことについて、右各支払は、原告が、同年二月二八日、有限会社西川興業(以下「西川興業」という。)から本件土地を代金二〇〇〇万円で取得するために支払ったものであって、本件土地の取得費になること、〈3〉原告は、同年六月一二日、勢川鉄工所から、本件建物を九八〇万円、本件建物に係る借地権(以下「本件借地権」という。)を〇円で取得したものであり、右九八〇万円から、その所有期間分(一年三か月分)に対応する減価償却費である一二万二五〇〇円を差し引いた九六七万七五〇〇円を本件建物の取得費とすることなどを前提として申告税額を計算していた。なお、原告は、本件確定申告に際して、右〈1〉に関し、原告が平成五年九月一日をもって鳥取市幸町二六番地から同市吉成南町一丁目三〇番二七号に転居した旨の記載がなされている住民票(乙一八)を被告に提出した。

(二) これに対して、被告は、平成六年一一月一五日、本件更正処分及び本件重加算税賦課決定処分をした。本件更正処分において、被告は、右(一)の〈1〉について、本件土地及び本件建物は措置法三五条一項に規定されている居住用財産に該当しないこと、右(一)の〈2〉について、原告から池上に対して支払われた三〇〇万円は、本件土地の取得費に該当しないことをその理由としていた。

(三) 原告は、平成七年一月六日、被告に対し、異議申立てをしたが、その申立てにおいて、本件建物の取得費は八〇万四六〇〇円であり、本件借地権の取得費は三七二〇万円であると主張した。

(四) これに対して、被告は、平成七年四月五日、本件各処分をそれぞれ一部取り消す旨の決定をなした。右決定において、被告は、原告が、本件建物と本件借地権を勢川鉄工所から取得したのは、平成四年六月一二日ではなく、昭和五六年五月二二日であるから、本件建物及び本件借地権に関する譲渡所得は、いわゆる短期譲渡所得として計算するのではなく、いわゆる長期譲渡所得として計算すべきであることを一部取消しの理由としていた。

(五) 原告は、平成七年五月二日、国税不服審判所長に対し、審査請求をしたが、その請求において、本件建物及び本件借地権を取得したのは昭和五六年五月二二日であり、本件建物の取得費は八〇万四六〇〇円、本件借地権の取得費は三七四〇万円であると主張した。

(六) 国税不服審判所長は、平成一〇年一月二七日、右審査請求は理由がないものとしてこれを棄却した。

(七) なお、前記(一)ないし(六)の経緯の詳細は、別紙一及び二のとおりである。

(八) 原告は、平成一〇年四月二一日、本件各処分の内容(異議申立てに対する決定による一部取消後のもの)について不服があったので、本件訴訟を提起した。

本件訴訟において、本件建物及び本件借地権の取得日が昭和五六年五月二二日であること、並びに本件建物の取得費が八〇万四六〇〇円であることについては、当事者間に争いがなく、また、原告は、その主張に係る借地権取得費が認められる場合には、本件土地及び本件建物は居住用財産に該当しないという被告の主張及び原告から池上に支払われた三〇〇万円は本件土地の取得費に該当しないという被告の主張については争わない旨主張している。

二  争点

1  本件借地権の取得費はいくらか。

2  本件土地及び本件建物は措置法三五条一項の居住用財産に該当するか。

3  原告から池上に対して支払われた三〇〇万円は本件土地の取得費に該当するか。

4  本件重加算税賦課決定の適法性

三  争点についての当事者の主張の要旨

1  本件借地権の取得費はいくらか。

(一) 原告

原告は、譲渡所得の計算において、借地権の取得価額は、売買時の土地一平方メートル当たりの価額に土地の面積を乗じて算出した評価額に借地権割合を乗じて算出するものと理解しているが、本件借地権の取得費は、〈1〉第一次的には、原告が昭和五六年四月三〇日に売却した宅地の売却額を参考にすると、本件土地は一平方メートル当たり二四万二〇〇〇円であり、これに本件土地の面積三二八・〇三平方メートルと借地権割合五〇%を乗じて算出される三九六九万一六〇〇円であり、〈2〉第二次的には、九八〇万円から本件建物の取得費の金額として当事者間で争いのない金額である八〇万四六〇〇円を控除した八九九万五四〇〇円を、本件建物の床面積七八・七七平方メートルで除し、本件土地の面積を乗じて算出される三七四〇万円である。

(二) 被告

本件借地権の取得費は、本件建物及び本件借地権の譲受価格である九八〇万円から、本件建物の取得費の金額として当事者間で争いのない金額である八〇万四六〇〇円を差し引いた八九九万五四〇〇円である。

2  本件土地及び本件建物は措置法上の居住用財産に該当するか。

(一) 原告

原告は、本件建物の大部分を居住の用に供して生活に必要な電気も消費しており、本件建物以外に原告所有の不動産や社会通念上居住できる建物はなく、官公署へ提出した書類には本件建物の所在地を住所地として記載しており、文書の送達受領にそごを生じたことはなかったのであるから、本件建物は、原告一人が質素な生活を営む唯一の生活の拠点であり、したがって本件建物及び本件土地は居住用財産であった。

(二) 被告

本件建物が原告の生活の本拠として居住の用に供されていたとはいえないから、本件建物及び本件土地は居住用財産に該当しない。

3  原告から池上に対して支払われた三〇〇万円は本件土地の取得費に該当するか。

(一) 原告

池上は、昭和四〇年ころから不動産売買を手広く営んでいて不動産に関する知識は豊富であり、また鳥取県宅建協会の会長や顧問として活躍したり、西川興業が所有する多くの不動産を管理していた上、昭和五六年当時の本件土地等の状況や当時の不動産に関する情報等を熟知していたのであるから、その池上が当時の本件土地の価値を公平な判断によって六〇〇〇万円とした上で、そのうち本件借地権の価額を四〇〇〇万円、本件土地の底地価額を二〇〇〇万円として、右底地の売買の仲介をしたことで土地に関する紛争が解決したことに対して原告が右三〇〇万円を池上に支払ったものであり、本件土地を西川興業から適正な価額で購入する際に支出した費用であるから、池上に対して支払った三〇〇万円は本件土地の取得費である。

(二) 被告

原告が池上に対して支払った三〇〇万円は、本件土地の取得費に該当しない。

4  本件賦課決定処分は適法か。

(一) 原告

本件更正処分は違法であるから、本件重加算税賦課決定処分も違法である。

(二) 被告

原告が過少申告となったのは、本件土地及び本件建物を伝習館に売却したことについて、措置法三五条一項に規定する特例が適用できないにもかかわらず、その適用があるとして確定申告をした結果であるが、原告は、「譲渡内容についてのお尋ね」と題する書面に本件建物を居住用であると記載したり、居住の事実の伴わない住民票を提出したり、税務調査において本件建物が生活の本拠であった旨の虚偽の答弁を繰り返したのであるから、重加算税の賦課要件を充足しており、これに基づいてなされた本件重加算税賦課決定処分は適法である。

第三証拠

書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

第四争点に対する当裁判所の判断

一  争点1について

1  証拠(甲一ないし三、六の2、九ないし一二、一五、一六、一八、乙二、一五ないし一七、二二、二四、二五、二七ないし三一、証人古野、同川)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。

(一) 勢川鉄工所は、西川カメ(以下「カメ」という。)所有の土地(以下「元番土地」という。)の一部(以下「分筆前の本件土地」という。)について同人から又は同人が代表取締役であった西川興業から賃借権(前記のとおり「本件借地権」という。)の設定を受けた上で、昭和三五年一〇月二〇日、分筆前の本件土地上に、本件建物を新築し、昭和三六年一月一一日、その所有権保存登記をした。

(二) 昭和五六年ころ、勢川鉄工所は、資金繰りに窮しており、金融機関から融資を受けるには、不動産を所有している個人の保証が必要となったため、原告の妻である川ふみ子(以下「ふみ子」という。)に対して、本件借地権とともに本件建物を譲渡することとし、昭和五六年五月二二日、同年四月三〇日売買を原因とする所有権移転登記をした。なお、勢川鉄工所のふみ子に対する右売買代金債権は、ふみ子の勢川鉄工所に対する債権との相殺で処理されており、現実に金員の授受がなされたわけではなかった。

(三) 昭和五九年一一月一四日、元番土地から本件土地が分筆され、昭和六一年一二月八日、ふみ子が死亡した。

(四) 平成四年二月二四日、本件建物について、右(二)の所有権移転登記を錯誤を原因として抹消する旨の抹消登記がなされたが、これは、勢川鉄工所が、遅くとも平成三年一二月ころより、本件建物の存在する本件土地について、賃貸人であったカメ又は西川興業から立ち退きを要求されていたため、本件建物の所有名義を本件土地の賃借人である勢川鉄工所と一致させておくのが得策であると判断したことによりなされたものである。したがって、右抹消登記にかかわらず、実体的には、本件建物の所有権は、ふみ子の相続人らに留保されていた。

そして、平成四年四月二八日、原告は、カメから、西川興業を介して、本件土地を代金二〇〇〇万円(支払方法としては、同日に三〇〇万円、同月三〇日に一七〇〇万円)で譲り受け、同年五月六日、その旨の所有権移転登記をした。

同年六月ころ、原告は、司法書士に依頼して、本件建物を勢川鉄工所が原告に対し代金九八〇万円で売却することを決議した旨の勢川鉄工所取締役会の決議書(甲三)を作成し、同年七月二七日、右決議書を原因証書として、本件建物につき、勢川鉄工所から原告に対する所有権移転登記がなされた。

(五) 平成五年八月五日、原告は、伝習館に対して、本件土地を五五五三万七四〇〇円、本件建物を四〇〇万円で売却し、同月六日、その旨の所有権移転登記がなされたが、本件建物は、同年一〇月六日に取り壊された。

(六) 原告は、平成六年三月一一日、本件確定申告に際して、「譲渡内容についてのお尋ね」と題する書面(乙二)に、本件建物を九八〇万円で買い入れ、減価償却費一二万二五〇〇円を差し引いた九六七万七五〇〇円を本件建物の取得費とした旨の記載をした上で被告に提出し、さらに、同年九月一三日、税務調査に際して、右(四)の決議書を被告に提出した。

また、原告の実弟である税理士の証人川は、同年一二月ころ、本件借地権を三七二〇万円で原告に売却することを決議した旨の勢川鉄工所取締役会の決議書(甲六の2)を作成し、原告は、平成七年一月六日、更正の請求書の添付資料として右決議書を被告に提出した。

さらに、原告は、平成七年一月二四日、異議調査に際して、被告係官からの質問に対し、売買契約書は作成されていないが、昭和五六年に勢川鉄工所からふみ子に対して売却された本件建物と本件借地権の売買代金の合計額は九八〇万円であった旨、甲第三号証の決議書に本件建物の売買代金として記載された金額である九八〇万円は、昭和五六年に勢川鉄工所からふみ子に対して売却された本件建物と本件借地権の売買代金の合計額である旨、九八〇万円を本件建物の売買代金として記載したのは、右決議書を作成する際に、本件借地権の価額と本件建物の価額を区別することができなかったためである旨説明した。

(七) ところで、本件土地に隣接して鳥取市幸町所在地番二六番八の宅地(地積三三四・八四平方メートル。以下「隣接地」という。)が存在し、また、隣接地上には、木鉄骨造瓦葺陸屋根二階建居宅(床面積一階一一七・六五平方メートル、二階四九・二五平方メートル。昭和五二年五月三一日新築。以下「隣接地建物」という。)が存在したが、隣接地建物については、昭和五七年九月八日、その所有者であった原告から加賀田さゆり(以下「加賀田」という。)に対して、借地権を含めて、代金一二〇〇万円で売却され、隣接地については、昭和六一年七月三日、その所有者であったカメから加賀田に対して、代金二〇二四万円で売却されている。

2  以上を前提に本件借地権の取得費について検討する。

確かに、本件建物を売買代金九八〇万円で売却する旨の決議書(甲三)は、前記1のとおり、平成四年六月ころ、勢川鉄工所から原告への所有権移転登記申請の際の原因証書として使用するために作成されたものであって、右作成経過に照らせば、右決議書の内容だけからふみ子が昭和五六年当時に本件建物を取得した際の本件借地権価額を推認することは困難である。

しかしながら、右決議書の内容に加えて、借地権付建物の売買代金には当該借地権の価額が含まれるのがむしろ当然であること、前記1(七)のとおりカメから加賀田に売却された隣接地は本件土地とほぼ同程度の面積であり、原告から加賀田に売却された隣接地建物は、本件建物と同じ居宅であるが、二階建であり、床面積も広く、建築年月日も相当新しいものであり、その隣接地建物とその借地権の譲渡価額が合計一二〇〇万円とされたこと、本件建物及び本件借地権の譲渡名義人となる勢川鉄工所としては、昭和五六年五月当時は経営が逼迫していたとはいえまだ倒産前であり、譲渡価額が低い方がその事業年度における法人税の計算において有利であったものと考えられること、原告は、本件確定申告において、本件建物の売買代金が九八〇万円であるとしてその申告をするとともに、その後の異議調査の段階において、右九八〇万円には昭和五六年当時における本件建物の取得価額の他に本件借地権の取得価額も含まれる旨の説明をしていたことを総合勘案すると、昭和五六年にふみ子が勢川鉄工所から取得した本件建物及び本件借地権の取得価額の合計額が九八〇万円であると認めるのが相当であり、右九八〇万円から本件建物の取得費として当事者間で争いのない金額である八〇万四六〇〇円を差し引いた八九九万五四〇〇円が、昭和五六年にふみ子が本件借地権を取得するのに要した取得費であるということができる。そして、本件借地権を相続によりふみ子から取得した原告においても、本件借地権に係る取得費は、右八九九万五四〇〇円であると認められる。

したがって、この点について本件更正処分に違法はない。

3  なお、原告作成の陳述書(甲一〇)及び証人川作成の陳述書(甲一)の中には、本件建物の売買代金は帳簿の未償却残額として、本件借地権の売買代金は借地権の面積が借地約二〇〇坪のうちの一〇〇坪であることからこれを四〇〇〇万円として、勢川鉄工所の取締役会で議決した記憶があるとの記載があるが、その裏付けとなる客観的証拠はなく、かえって、前記2において検討したとおり、原告から加賀田に対する隣接地建物とその借地権の譲渡内容についての検討結果からすると、右記載部分を直ちに採用することはできない。

また、原告は、前記九八〇万円は、本件建物の代金と本件建物の敷地部分のみに係る借地権の代金の合計額であって、九八〇万円から本件建物の代金を引いた残額を本件建物の床面積で除したものに本件土地の全面積を乗じたことにより算出される金額が本件借地権全体の価格であるから、右計算により算出した三七四〇万円が本件借地権の価額であると主張し、原告作成の陳述書及び証人川作成の陳述書の中にも、これに沿う記載があるが、敷地部分のみに係る借地権の価額だけを本件建物の価額と合計して取得額としたという内容自体不自然である上、これを裏付ける客観的証拠もなく、さらに前記2において検討した原告と加賀田との間の隣接地建物及びその借地権に関する取引内容に照らすと、右九八〇万円が本件建物と本件建物の敷地部分のみに係る借地権の代金の合計額であるとは到底いえないから、右記載部分を採用することはできない。

さらに、原告は、昭和五六年に原告が株式会社不動企業に対して鳥取市今町二丁目二七八番所在面積三〇八・二九メートルの土地(以下「今町の土地」という。)を売却した際の代金は一億一五〇〇万円であり、右取引を参考にして、借地権割合を五〇%として本件借地権の価格を計算すると、その額は三九六九万一六〇〇円になる旨主張するが、原告の右主張に係る計算方法は、あくまで、本件借地権の当時の適正価額ないし評価額を求める計算方法の一つにすぎないものであって、勢川鉄工所とふみ子との間においてなされた売買取引における現実の売買代金額を直接に求めるものではないこと、仮に、右計算方法に基づく計算結果から右売買取引における現実の売買代金額が推認できると主張しているものと善解したとしても、前記2において検討した原告と加賀田との間の隣接地建物とその借地権に関する取引内容、平成五年度における固定資産税評価額の比較結果(乙第二一号証の1、2によれば、今町の土地は本件土地の五倍以上の評価額となっている。)、今町の土地と本件土地の路線価の比較結果(甲八)などに照らすと、原告の主張に係る右計算方法による算出額は余りにも高額にすぎるものであり、原告の計算方法及び計算結果から直ちに、勢川鉄工所からふみ子への本件借地権の売却価格が三九六九万一六〇〇円であったと推認することはできない(なお、本件借地権価額を三七二〇万円とする決議書(甲六の2)は、前記のとおり本件申告がなされた後である平成六年一二月ころ、本件各処分についての調査がなされている状況下において証人川において作成されたものであって、右作成経過に照らすと、その決議書に記載のとおりの額で借地権の取引がなされたと認めることは到底できない。)。

二  争点2について

1  証拠(甲一、一〇、一五、乙三の1ないし3、四ないし八、二二、二六、証人古野、同川)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。

(一) 本件建物は、昭和三五年一〇月二〇日に建築された後、原告の末弟が住んでいた時期があった。その後、原告の娘夫婦が本件建物に住むようになったが、原告の娘夫婦は、鳥取市吉成南町一丁目三〇番二七号にある建物を自宅として購入したので、昭和五五年五月ころに本件建物から引っ越した。その後、昭和五五年ころから昭和五六年ころまでは、本件建物は、縫製会社に縫製工場として賃貸されていた。そして、昭和六〇年一〇月ころから、本件建物は、原告が行う損害保険代理業の損害保険代理店事務所として使用されるようになった。その後、本件建物は、平成五年八月に伝習館に売却され、同年一〇月六日に取り壊された。

(二) 本件建物における電気使用量については、一か月間の使用量が、平成二年一月から平成五年九月までの間では最低で九キロワット、最高で一一三キロワット、平成二年は平均して二〇キロワット弱、平成三年から平成五年はそれぞれ平均して五〇キロワット弱であった。

本件建物における水道使用量については、昭和六一年六月に開栓されたものであり、一か月の使用量が、平成二年一月から平成五年一〇月までの間では最低で一立方メートル、最高で四立方メートル、平成二年から平成五年まではそれぞれ平均して二立方メートル弱であった。

本件建物における都市ガス使用量については、平成二年一月から平成五年一〇月までの間においては、都市ガス供給契約が締結されておらず、都市ガスは使用されていない(なお、本件建物は都市ガス供給地域内にあったが、本件建物の風呂は灯油を使用するバーナーを利用するものであった。)。

(三) 原告は、自己を被保険者とする生命保険契約の保険料を金融機関の普通預金口座を利用して支払っていたが、昭和五九年七月一三日、右金融機関に対し、従前届け出ていた住所を右(一)の娘夫婦の自宅がある鳥取市吉成八一五番地二二(昭和六〇年五月七日の住居表示実施により鳥取市吉成南町一丁目三〇番二七号に修正される前のもの)へ変更する旨の変更届を出した。

(四) 原告の妻ふみ子は、昭和六一年一二月八日に死亡したが、生前は、右(一)の娘夫婦の自宅において生活しており、その葬儀もそこで行われた。

2  以上を前提に検討するに、本件建物が昭和六〇年ころから原告の損害保険代理店事務所として利用されてきたこと、本件建物における電気と水道の使用量が相当少なく、風呂に関してはガスが不要であったとはいえ、都市ガス供給地区であるのにその供給契約が締結されていなかったこと、昭和五九年に金融機関への住所変更届を出し、届出住所を本件建物所在地から原告の娘夫婦の自宅所在地へ変更していること、原告の妻が、生前は原告の娘夫婦の自宅で生活していて本件建物には住んでいなかったことなどの本件建物の使用状況に関する諸事情を考慮すると、原告は、遅くとも昭和五九年ころには、その娘夫婦の自宅を生活の本拠としており、本件建物を生活の本拠として使用していなかったものと認めるのが相当であるから、本件土地及び本件建物は、措置法上の居住用財産に該当しないというべきである。

したがって、この点について本件更正処分に違法はない。

三  争点3について

1  証拠(甲一〇、一一、乙一一の1、2、一二の1、2、一三、一四、二三、証人川)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。

(一) 原告は、池上に対し、平成四年二月二八日に一五〇万円、同年四月三〇日に一五〇万円を支払った。

右いずれの支払においても、池上は、原告に対して領収書を交付しているが、同年二月二八日の支払においては、勢川鉄工所の振出しに係る振出日昭和五六年一〇月二五日、額面一〇〇万円の持参人払式の小切手の裏面に領収文言を記載した体裁の領収書を交付し、平成四年四月三〇日の支払においては、勢川鉄工所の振出しに係る支払期日昭和五六年一〇月一五日、額面二〇〇万円、受取人白地の約束手形の裏面に領収文言を記載した体裁の領収書を交付している。

(二) 平成四年二月二八日付けで、原告が、池上に対し、同人から借用していた金員の残額一五〇万円は本件土地売買残代金支払時に併せて支払う旨の念書が存在する。

平成四年四月二八日になされた原告と西川興業との間の本件土地売買を仲介したのは、株式会社山陰不動産センターであったが、その代表取締役であった池上は、本件土地の売買を仲介したことについて、仲介手数料として六六万円の支払を受けており、原告の娘夫婦に対して、右支払に係る額収書を交付している。

2  以上の事実を前提とすると、原告から池上に支払われた三〇〇万円は、池上からの借受金に対する弁済として支払われたものであると認めるのが相当であって、原告が本件土地の取得に要した費用であるということはできない。

したがって、この点について本件更正処分に違法はない。

3  なお、原告は、昭和四〇年ころから不動産売買を手広く営んでいた池上は不動産に関する知識が豊富であり、鳥取県宅建協会の会長や顧問として活躍し、西川興業が所有する多くの不動産を管理し、昭和五六年当時の本件土地等の状況や当時の不動産に関する情報等を熟知していた者であるが、その池上が当時の本件土地の価値を六〇〇〇万円と判断し、そのうち本件借地権の価額を四〇〇〇万円と評価した結果、本件土地の底地価格を二〇〇〇万円としてその売買の仲介をしたことにより土地に関する紛争が解決したことに対し、原告が前記三〇〇万円を支払ったものであり、本件土地を西川興業から適正な価額で購入する際に支出した費用であるから、取得費にあたると主張する。

しかしながら、前記2に説示のとおり、右三〇〇万円は、池上からの借受金に対する弁済として支払われたものであると認めるのが相当であることに加えて、本件土地の売買代金について原告と西川興業との間において何らかの紛争があったことをうかがわせる事情は認められず(なお、勢川鉄工所と西川興業との間において、平成三年ころ、本件土地を明け渡すかどうかについての紛争があったことは認められるが、それが本件土地の売買について直接的な関係を有しているとは必ずしもいえない。)、その他に原告の右主張を裏付ける客観的証拠はないことからすると、原告の右主張を採用することはできない。

四  争点4について

前記第二の一及び第四の一ないし三の事実認定及び検討結果によれば、原告が、平成五年分の所得税の課税標準又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたといえるから、本件重加算税賦課決定について違法な点は認められない。

五  まとめ

そして、本件各処分については、その他にも違法な点は見当たらないから、本件各処分はいずれも適法である。

第五結語

以上によれば、原告の本訴請求は理由がないから、いずれもこれを棄却することとし、訴訟費用の負担については、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結の日 平成一一年一〇月五日)

(裁判長裁判官 内藤紘二 裁判官 一谷好文 裁判官 三島琢)

(別紙一)

〈省略〉

(別紙二)

別表一

課税経過等一覧表

〈省略〉

別表一

課税経過等一覧表

〈省略〉

別表三

長期譲渡所得の取得費の明細表

〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例